星や惑星系の誕生を探る

研究紹介(その2)

星の誕生を探ることは,電波天文学の主要なテーマです。また,惑星系は星が誕生する際に同時に形成されると考えられています。ここでは,星・惑星系の誕生の様子がどのように電波天文学で探られているのかについて,我々の研究活動に沿って説明したいと思います。

星間物質から星へ

電波天文学は星間物質を主たる研究対象としますが,一言で星間物質といっても,その取りうる物理状態は様々です。このことから,星間物質をさらに複数の「相」に分類することがあります。我々はその中でも,宇宙全体から見れば地球のごく近くで起こっている星の誕生や惑星系の誕生に直接関連するものに興味を持って研究を進めています。星の直接の材料となっているような星間物質が放つ電波を観測し,星誕生の様子を調べようというわけです。

星は「分子雲」と呼ばれる星間物質の相で誕生しています。分子雲という名前の由来は,星間物質の最も主要な構成物質である水素が,分子の形態をとっていることによります。分子雲は大変な低温・低密度(星間物質の中ではもっとも高密度ではありますが…)な環境で,温度は摂氏マイナス260度程度,密度は地表面における地球大気の約18桁下でしかありません。少し脇道にそれますが,誕生直後の星に含まれる単位体積あたりの分子数は,地表面における地球大気のそれと同程度です。したがって,星間物質が収縮して星ができるという過程には,約18桁の密度上昇が,長さスケールにすると6桁の収縮が,それぞれ必要ということになります。

ミリ波・サブミリ波の重要性

さて,この星誕生の現場である分子雲を調べる上で最も重要な手段が,『ミリ波・サブミリ波』と呼ばれる電波での観測です。分子雲中には様々なガス分子が存在していますが,それらは回転遷移と呼ばれる現象に伴うスペクトル線を出します。また,分子雲中にはサブミクロンサイズの固体微粒子も含まれていますが,分子雲のような超低温な環境下では,サブミリ波からミリ波において熱放射を出します。つまり一言でいうと,分子雲は可視光では光っていなくても,ミリ波・サブミリ波では光っているのです。

星の誕生は宇宙物質の循環の中で,「星」と「星間物質」をつなぐ要となる過程であり,その理解は天文学の主要なテーマの一つといえます。我々は,ミリ波・サブミリ波観測から,分子雲中のガスを構成するガス化学組成や,そこでの温度・密度の詳細構造,あるいはガスの運動に関する情報を得て,この大問題の解明に取り組んでいます。そのため,長野県野辺山高原にある国立天文台野辺山45mミリ波望遠鏡や,チリ・アタカマ砂漠にあるASTE10mサブミリ波望遠鏡といった,国内外の最先端の望遠鏡を使用しています。特にASTE望遠鏡に関しては,単にユーザーとして参加するだけでなく,他大学(東京大,名古屋大,大阪府立大,北海道大,慶応大等)と共同連合体を組み,国立天文台とともに運用にも参画しています。

惑星系の誕生に迫る

宇宙における物質循環を明らかにするという観点に加え,星の誕生を調べるもう一つの動機となっているのが,惑星系の誕生を解き明かそうという観点です。我々が住んでいる地球は,太陽という恒星の周りを回っている惑星です。太陽は今から46億年前に誕生したことが隕石の分析から明らかになっており,地球をはじめとする惑星もまた,太陽とほぼ同時に形成されたと考えられています。すなわち,太陽へと収縮しきれかなった星間物質の一欠片が,我々の住処である地球の材料になったという訳です。翻って,太陽のような星は現在も分子雲中で多数誕生している訳ですから,そこを詳しく調べることができれば,太陽系のような惑星系の誕生の現場を捉え,また我々自身が辿ってきた道を知る手掛かりを得ることができるかもしれません。

実際,ここ最近20年ほどの観測技術の進化に伴い,若い星の周りには,惑星系の母胎となるような円盤(原始惑星系円盤)が遍在していることが明らかになっています。これら円盤の様子を注意深く調べれば,宇宙における惑星系形成の一般的過程が明かされると期待されています。地球のように生命体が存在しうる惑星の普遍性・特殊性についてもまた,理解が深まることでしょう。我々の研究室では,野辺山45m望遠鏡やASTE望遠鏡を用いた観測を通じて,これら原始惑星系円盤の詳しい様子を調べてきました。今後は,日本が世界に誇る「すばる望遠鏡」や,2011年9月から本格的に稼働を始めた「アルマ望遠鏡」を用いて,その研究をさらに発展させていくつもりです。


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