日立・高萩の電波望遠鏡

研究紹介(その3)

観測天文学というと,何はともあれ,立派な望遠鏡を用いた研究をまずは思い浮かべるかもしれません。しかし,より良い装置を作っていくのも,観測天文学を進展されるための重要な一側面です。ここでは,この面からの我々の取組を紹介します。

電波望遠鏡を作る

研究紹介(2)では,既存の電波望遠鏡を用いた研究を紹介してきました。ところが,完成品としての電波望遠鏡がそもそも最初から存在しているわけではありません。我々の身近には電波を受信する汎用無線機器が溢れており,電波の受信原理に限っていえば,これらは電波望遠鏡と共通する点が多々あります。しかし,無線業務で使われる人工電波に比べると,宇宙からやってくる電波は比較にならないほど微弱なため,実際にはその受信に最適化された特別な機器を用意する必要があります。電波観測に限らず天文学においては,より良い機器を作り上げることもまた,新たな宇宙の姿を明らかにするために極めて重要な要素なのです。

旧通信アンテナの電波望遠鏡化計画

このような活動として我々の研究室では最近,茨城大学宇宙科学教育研究センターとも連携しながら,高萩市・日立市にある口径32メートルのアンテナ2基を電波望遠鏡化するプロジェクトを進めています。これらのアンテナはKDDI株式会社により長らく衛星通信用途に使用されていたもので,その使命を終えた2009年に,国立天文台に譲渡されました。現在は国立天文台や国内の大学連合とも協力しながら,茨城大学がその運用に責任を持っています。譲渡以降,2011年3月の大震災で負ったダメージに苦しんでいる部分もあるものの,着実に改造を進めています。

この一連の活動では,我々の研究室に所属する学部生や大学院生が大いに活躍しています。先程述べたように電波天文では,微弱な電波を検出するのに特化した受信機や分光器をゼロから開発しなければなりません。また,元々通信用途に利用されていたアンテナを電波望遠鏡に改造するためには,光学系の調整や追尾機能の付加,それらの性能確認といった作業も必要です。これらの項目を各学生が自らのテーマとして解決に取り組み,また着実に成果を挙げています。このような取り組みには,電波の受信原理や機器動作の仕組みの基礎に戻って常に物事を検討する必要があります。また,グループ内で密接にコミュニケーションをとり合い知見を共有しないと,この種の研究は進められませせん。多くの学生が卒業後,様々な職場で活躍していますが,職業上あらゆる場面で要求される「スキル」や「物事を深く考える習慣」,さらに「コミュニケーション能力」を鍛える場として,観測天文学は絶好の場であると自負しています。

目指すサイエンス

このアンテナを用いて我々は,主に「超長基線干渉計(VLBI)」と呼ばれる観測法により,活動的天体から放出される高輝度な電波を観測しようとしています。VLBIとは,遠隔地にあるアンテナ同士で同じ天体からの信号を同時に取得し,取得した信号同士を干渉させることにより,アンテナ間距離に応じた空間分解能を得る観測法です。すでに,国内や中国(上海)にある電波望遠鏡と組み合わせたVLBI観測を成功させています。今後,太陽よりも10倍程度質量の大きな星が誕生している現場や,星の大集団である銀河の中心に存在している巨大ブラックホールからのジェット現象などを解明していきたいと考えています。


◎関連リンク◎


研究紹介(その4)「地域社会における教育事業との連携」に進む


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