形成しつつある
惑星の兆候を捉えた

─すばる望遠鏡による新たな発見─

日本天文学会春季年会講演(森田彩佳ほか)に関して行った記者会見(2012年3月18日,京都大学)での資料をまとめました。

観測天体:HD169142

HD169142という若い恒星(図1)を取りまく円盤中に,惑星の存在を強く示唆する兆候を見出した観測結果を報告します。

HD169142は,水素核融合を起こす前の段階にある恒星(前主系列星)です。地球からは470光年の距離にあり,太陽の約2倍の質量を持っています。年齢は前主系列星としてはやや古く,約600万年です。過去の観測から,この恒星の周囲には,半径230AU[註1]に広がった円盤が存在することが知られていました。また,恒星から20AUの範囲には,円盤物質が希薄になっている「穴」があることも間接的に示唆されていました。

[註1]1AU(1天文単位)は太陽と地球の平均距離で,約1億5000万km。


観測手法:偏りのある光(偏光)をコロナグラフで捉える

この円盤の様子を詳しく探るために今回使用したのが,すばる望遠鏡に搭載された惑星探査用カメラHiCIAO(ハイチャオ)です。HiCIAOは,地球大気による像の揺らめきを高精度で補償するシステムと組み合わされて動作するコロナグラフです。恒星からの直接光をマスクで隠し,その周囲に広がる淡い光の画像を取得します(図2)。


今回HiCIAOが捉えたのは,円盤表面付近の塵粒子が散乱した赤外線です。散乱赤外線には,振幅方向に偏り(偏光)が生じます。HiCIAOは,光を二成分に分けた後に両者の差をとることができる光学系(差分光学系)で構成されており,偏光成分を効率的に抽出できます。これにより,円盤起源の赤外線をより選択的に捉えられました(図3)。


観測結果:惑星の兆候を示唆する模様

その結果,波長1.6μmの赤外線において,恒星から29AU以遠で有効な偏光強度画像が得られました(図4)。画像としては,かつてない鮮明さで恒星近傍の円盤を捉えたものです。この中に,半径51-87AUの範囲で「溝状」に偏光強度が暗くなっている領域の存在が,今回初めて確認されました。また,溝の内縁と外縁に相当する場所がリング状に明るくなっていることも明らかになりました。

この画像で特に注目されるのは,回転対称もしくは180°対称から著しく外れた模様が見られる点です。具体的には,内側のリング(半径39AU)の明るさが一様でないことや,溝の中(半径65AU付近)に明るい斑点状の模様がみられる点が挙げられます。

このように著しく非対称な構造を,中心にある恒星の影響だけで作るのは困難です。一方,もし円盤内に原始惑星が存在していれば,そこを起点とした擾乱によって円盤内に非対称な構造を作りえます。つまり,今回発見された円盤の模様から,惑星の存在が強く示唆されます。惑星の存在が最も強く疑われる領域は,恒星から20AU以内の穴の領域(本観測ではマスクの背後),および,半径51-87AUにある溝の間です。


今回の観測の意義

後に,今回の発見の意義と今後の研究進展の展望について触れます。惑星系に関わる円盤には,次の二つの種類があることが知られています。

HD169142は前主系列星であり,その面からは円盤は(a)に分類されます。しかし,HD169142はやや古い前主系列星である上に,今回の観測で新たに惑星の存在が強く示唆されました。これらのことから,実際は(a)から(b)へと遷移する途中の,ユニークな進化段階にある円盤だと考えられます。

現在,南米チリで建設が進められ,2011年から部分運用が始まっている大型電波観測装置「アルマ望遠鏡」が完成すると,HD169142の円盤を解像度約1AUで観測できるようになります(図5)。惑星の存在をより直接的に検証し,その形成過程の詳細を明らかにできるものと期待されます。

[註2]水素の核融合反応をエネルギー源として安定に光っている恒星。恒星の大部分は主系列星で,太陽もその一つ。



※ 本成果は,太陽系外惑星と円盤をすばる望遠鏡を用いて探査する国際プロジェクト「SEEDS」で得られたものです。

各種資料 

研究グループ

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