物理量・単位・数式の書き方

百瀬宗武 (茨城大学理学部)

はじめに:注意書き

この記事は,Latex表記によりウェブページ中に美しい表記の数式を埋め込むことができるMathJaxを用いています。以下には,輻射強度を表すプランクの式を挙げていますが,これが正しく表示されていれば準備OKです。

\begin{align} B_{\nu}(T;\nu) = \frac{2\mathrm{h} \nu^{3}}{\mathrm{c}^{2}}\left[ \exp \left(\frac{\mathrm{h}\nu}{\mathrm{k}T}\right)-1\right] ^{-1}. \tag{1} \label{planck1} \end{align}

この項の狙い

理系文書では数式を多用します。その中では,物理量をアルファベットやギリシャ文字に置き換えた表記が頻繁に用いられます。「質量を$M$で,長さを$l$で表す‥」といった具合です。上の式(\ref{planck1})でも,温度を$T$,振動数を$\nu$としています。

さてここで,式(\ref{planck1})の「$T,~\nu, ~B_\nu$」が傾いた活字(イタリック体)に,「h, c, k」は立体活字(ローマン体)になっていることに気がついたでしょうか。これは意図的に区別しています。コンピュータを用いて作成する理系文書では,『物理量』をアルファベットで表すときには傾いた活字(オブリーク体,もしくはイタリック体)にするというルールがある一方,数式中でイタリック表記にしない(してはいけない)ものもあります。以下に列挙するルールをマスターし,より正しい体裁の文章が書けるようになりましょう。

具体的なルール

重要と思われる順に列挙します。特に1-4は必ず守れるようになって下さい。


  1. 物理量はイタリック体で書く。例えば,次の通り。 ここでは,$F, m, a$すべてが物理量なので,イタリック体にする。
  2. 物理量に添字をつける場合,その添字が物理量ではない場合は,ローマン体にする。例えば,次の通り。 ここでは,「A, B」は質点の名前(ラベル)であって物理量ではないので,ローマン体にする。逆に,以下のようにしてはいけない。 \begin{equation} \mathrm{(誤)~} ~~\vec{F}_{AB} = -\vec{F}_{BA}. \end{equation} 同様の注意は,例えば最大,最小の意味の添字をつけて $F_{\mathrm{max}}, F_{\mathrm{min}}$などとする場合も当てはまる(「$F_{max},F_{min}$」などとしてはいけない)。
  3. 単位や化学式はイタリック体ではなく,ローマン体で書く。 \begin{align*} \mathrm{[例1]~(誤)~} ~~g &= 9.8 ~m~s^{-2}\\ \mathrm{(正)~} ~~g &= 9.8 ~\mathrm{m~s}^{-2} \end{align*} \begin{align*} \mathrm{[例2]~(誤)~} ~~H_3^{+} + CO &\rightarrow HCO^{+} + H_2\\ \mathrm{(正)~} ~~\mathrm{H}_3^{+} + \mathrm{CO} &\rightarrow \mathrm{HCO}^{+} + \mathrm{H}_2 \end{align*} Latexの数式モード中では,アルファベットは特に指定しないとイタリック体になる。数式中で上記のように部分的にローマン体にする場合は,\mathrm{}か\text{}で指定する。なおLatexでは,化学式を簡単に書く mhchem という便利なパッケージ(リンクは阪大理の山中卓先生のページ)もあるので,興味のある人は試して欲しい。
  4. 数式に出てくる数学関数は,ローマン体で表記する。例えば,$\sin \theta$,$\log x$,$\exp x$など。Latexの場合は数式モード中では「\sin」「\log」「\exp」などを使う。ただし,物理量を関数で表す場合は,イタリック体にする(例えば,圧力を表す関数を,$p(x,y,z,t)$と表記するなど)。 \begin{align*} \mathrm{[例]~(誤)~} ~~d\Omega &= sin \theta ~d\theta~d\phi \\ \mathrm{(正)~} ~~d\Omega &= \sin \theta ~d\theta ~d\phi \end{align*}
  5. 物理定数や数学定数(円周率 $\pi$ やネイピア数 e,虚数単位 i),さらに座標軸は,本来はローマン体とすべきだが,慣習的にはイタリック体も良く使われる。投稿する雑誌などで決めごとがある場合はそれにしたがい,それ以外では自分なりに一貫した表記法を採用すれば良い。プランク関数を例にこれを示すと, \begin{align} B_{\nu}(T;\nu) = \frac{2h \nu^{3}}{c^{2}} \left[ \exp \left(\frac{h\nu}{kT}\right)-1\right] ^{-1}. \tag{4} \label{planck2} \end{align} ここで,h(プランク定数),c(真空中の光速),k(ボルツマン定数)は物理定数である。式(\ref{planck1})ではこれらをローマン体にしていたが,上の式(\ref{planck2})ではイタリック体になっている。もう一つ例を挙げよう。 座標軸は物理量ではないので,本来は「x, y, z軸」「$B_\mathrm{x}, B_\mathrm{y}, B_\mathrm{z}$」とローマン体で表記すべきだが,イタリック体で書かれることも多い。
  6. 微分積分でたくさん出てくる「d」も物理量ではないので,本来はローマン体とすべきだが,慣習的にはイタリック体もよく使われている。下は,一次元の輻射輸送方程式を意図した表記例である。 \begin{align*} \mathrm{(本来の表現)~} ~~ \frac{\mathrm{d}I_{\nu}}{\mathrm{dx}}&=j_{\nu}(\mathrm{x}) - \alpha_\nu(\mathrm{x}) I_{\nu}(\mathrm{x}), \tag{5} \label{rad1}\\ \mathrm{(慣用表現)~} ~~ \frac{dI_{\nu}}{dx}&=j_{\nu}(x) - \alpha_\nu(x) I_{\nu}(x). \tag{6} \label{rad2} \end{align*} 上の例では,微分演算子中の"d"の他,位置座標を表す"x" についても,5.の慣用表現にしたがった。

教科書や論文等を読む際にも気を配ると,正しい表記法をより効率的に身に付けられるでしょう。

文章中に出てくる数式の扱いについて

文章中で数式を書く場合,それが「文の最後にあるのか」「文の途中なのか」によって,その末尾の処理が異なります。具体的には,上で番号をつけた式の場合も,改めて見直すと次のような違いをつけています。

つまり,数式といえども,文(文章)の一部であることを忘れてはいけません。文脈によっては式の最後にカンマ(読点に相当)をおく場合もあります。具体的には,式(\ref{rad1})と式(\ref{rad2})を比較して下さい。

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